ネットカルチャーに触れたことがある人なら、一度は目にしたことがあるはずです。青と白の清潔感あるタイル、ガラス張りの開放的な天窓、そして部屋の真ん中にたたずむ細長い屋内プール。多くの成人向け映像作品(AV)で舞台となり、いつしかインターネット上で名前を出さずとも画像一枚で理解される特異な存在、それが通称「例のプール」です。
思わずニヤリとしてしまうネットミームとして広く浸透していますが、その発祥や具体的な設備、なぜこれほどまでに業界で重宝されたのかという「現場の合理的な理由」まで知る人は多くありません。2026年の今なおサブカルチャーの生ける伝説として親しまれる、あの空間の知られざる歴史と現在の実態を追いました。
【発祥と正体】「例のプール」のスタジオ名と新宿にある所在地

ネット上で長年親しまれているあの空間には、明確なスタジオ名が存在します。運営会社は商業撮影スタジオを多数手がける株式会社ピース・マインド(ピースタジオ)であり、スタジオの正式名称は「No.138 花園ルーム(Hanazono Room)」です。
所在地は東京都新宿区新宿1丁目。東京メトロ丸ノ内線の「新宿御苑前駅」から徒歩数分という、都心の一等地に建つビルの最上階(9階〜10階)に位置するメゾネットタイプのペントハウススタジオです。
エントランスを抜けると広がる吹き抜けのリビング、その奥にガラスで仕切られたインドアプールが設置されています。ワンフロア上の10階部分にはベッドルームやバーカウンターのような空間も用意されており、ラグジュアリーな豪邸のワンシーンを再現するために綿密に設計された空間です。
【なぜ有名になったのか】成人向け作品からネットミームへ至る歴史と元ネタ
このプールが広く知られるきっかけとなった元ネタは、2000年代半ばから急増した成人向けビデオ作品の数々でした。「大富豪のプライベートプール」「高級マンションに住むセレブの日常」といったシチュエーションを作るにあたり、この花園ルームがうってつけのロケ地だったのです。
数々のメーカーがこぞって利用した結果、パッケージを開けた視聴者の間で「またこのプールか」「どの作品を見ても同じプールが出てくる」と話題になり始めました。当時の「2ちゃんねる(現5ちゃんねる)」やブログ、ソーシャルメディアを通じて、誰からともなく「例のプール」と呼ばれるようになり、言葉を使わずに画像を投稿するだけで文脈が伝わる強力な共通言語(ミーム)へと進化を遂げました。
男同士の会話で「あの部屋」と言えば即座に笑いが起きるようなネットスラングとしての地位は、10年以上をかけて強固に築き上げられたものです。
【撮影スタジオの構造と設備】制作会社がこぞって重宝した納得の理由
なぜ映像制作陣は、揃いも揃ってこのスタジオを選んだのでしょうか。そこには映像制作の現場ならではのシビアかつ現実的な理由が存在しました。
第一に、「水回り撮影のハードルの高さ」です。一般のホテルや高級タワーマンションでは、水着での大掛かりな撮影や成人向け作品のロケ許可が下りることはまずありません。公共のプールを貸し切る場合も利用規約が厳格で、機材の搬入や照明の設置に多くの制限がかかります。
その点、ピースタジオの花園ルームは最初から商業撮影を目的に設計されています。温水機能が完備されているため季節を問わず水着や水中での撮影が可能で、天窓からは明るい自然光が差し込み、日中の爽やかなライティングが容易に作れます。
さらにメゾネット構造の吹き抜け上部から見下ろすアングルでカメラを構えられるため、ワンパターンになりがちな狭い室内でも多彩なカットを撮影できる点も、過密なスケジュールで動く撮影クルーにとって決定打となりました。
【一般利用・予約と料金】誰でも借りられる?2026年現在の利用事情
「プロの撮影隊しか入れない場所なのではないか」と思われがちですが、花園ルームは規約を守り正規の手続きを踏めば、個人でも予約して利用することができます。
料金体系はスチール(静止画)撮影とムービー(動画)撮影で分かれており、時間単位でのレンタルが基本です。時間帯や平日・休日によって変動するものの、1時間あたり約1万5,000円〜2万5,000円前後(最低利用時間の設定あり)が目安となっています。プールに水を張ったり温水にしたりするオプションには別途料金や事前申請が必要です。
グループで費用を分担すれば、コスプレ撮影会や同人誌のロケーション、YouTuberの企画動画、ファン同士のオフ会イベントなど、一般のクリエイターやファンでも十分に手の届く範囲で利用可能です。2026年現在も公式ウェブサイトから空き状況を確認し、予約申込を行うシステムが維持されています。
【カルチャーとしての拡散】特撮・アニメ・一般メディアへの進出
ネット上のスラングとして有名になりすぎた結果、成人向けの世界にとどまらず、一般のエンターテインメント業界が「公然のネタ」としてこのプールを逆輸入する現象が相次ぎました。
特撮ドラマ『仮面ライダーフォーゼ』の劇中で敵のアジトとして登場した際には、子ども向け番組に「例のプール」が映ったとして保護者や特撮ファンがネット上で騒然となりました。さらにアニメ『咲-Saki- 阿知賀編』や様々なギャグ漫画、バラエティ番組の再現VTRなどでも背景やセットとして堂々と引用される事例が多発しています。
かつては知る人ぞ知るアングラなロケ地だった空間が、認知の拡大とともに「日本を代表する有名な部屋」へと脱皮し、プラモデルやジオラマ、アクリルスタンドの背景グッズとして商品化されるまでの社会現象となったのです。
【例のプール】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:一般人でも見学やコスプレ撮影のために予約できますか?
A1:可能です。運営会社であるピースタジオの公式サイトから空き状況を確認して予約申請を行えます。ただし商業撮影スタジオであるため、事前の利用規約の確認やプールの注水オプションの指定、最低利用時間の条件などを満たす必要があります。
Q2:あのプールは実際に泳げる深さや広さがあるのでしょうか?
A2:観賞用や撮影用として作られているため、本格的な水泳を行うためのプールではありません。長さは約数メートル、水深も腰から胸の高さ程度であり、水に浸かったり水辺に腰掛けたりする撮影に最適化されたサイズ感です。
Q3:なぜ他のスタジオではなく、この花園ルームばかりが使われたのですか?
A3:都心の新宿という抜群のアクセスに加え、屋内温水プールという極めて特殊な設備を持ち、かつ成人向けを含む多様な商業撮影を公認していたスタジオが他になかったためです。制作側の使い勝手の良さが重なった結果、自然と定番のロケ地となりました。
まとめ:エロの象徴から世界的ネットミームへ昇華した稀有な空間
単なる成人向け作品の撮影現場として始まった「例のプール」は、制作現場の実用的なニーズとネットユーザーの面白がる熱量によって、唯一無二のカルチャーアイコンへと進化しました。
新宿の一角にあるスタジオは、いまや日本国内のみならず、海外のネットユーザーからも「That Pool(あのプール)」として認知される世界的なミームスポットです。映像制作の利便性が生んだ偶然の産物は、時代や媒体の垣根を越え、日本のインターネット史に刻まれる特異な文化遺産としてこれからも語り継がれていくはずです。